アピールポイント

YAMAHA MT-10のアピールポイントを、現オーナー目線で語らせてもらいます。
まず最初に結論から。
「CP4エンジンの魅力を、あますことなく楽しめるバイク」
これがkurokiが思う、MT-10の本質です。
特にエンジンは本当に素晴らしく、唯一無二の存在です。そして、そのエンジンを余すところなく引き出せるパッケージング。
これらが高い次元で組み合わさることで、ツーリングからサーキットまで幅広く楽しめる 「Fun Rideなマシン」に仕上がっています。
経験を積んだベテランライダーほど、このマシンの魅力が深く刺さるはずです。
それでは、詳細を掘り下げていきましょう。
エンジン

MT-10の魅力の中核にあるのが、「CP4エンジン」です。
低回転域から「みずみずしいトルク」が怒涛のように湧き上がります。
二気筒エンジンのような粒のあるビートを感じさせながら、ギクシャク感は一切ありません。
「The King of MT」の称号にふさわしい、荒々しいほどのトルク感を味わえるエンジンです。
回転数を上げていくと、豊かな倍音を伴いながら音階のように変化していくサウンドが、まるで楽器のように響きます。まさにMotoGPのYAMAHAサウンドです。
特にGen2で搭載された「アコースティック・アンプリファイア・グリル」は、エンジンの吸気音とインテークダクトが共鳴し、気持ちがたかぶるサウンドを直接ライダーへぶつけてきます。一気にスロットルを開けた瞬間、鳥肌が立つような快感が走ります。
低回転で感じられたドコドコとした鼓動は、回転数の上昇とともにスムーズになっていきます。しかし、湧き上がるトルクは高回転域まで続きます。
荒々しさとスムーズさ。
相反する要素が同居するという、なんとも不思議で官能的なエンジンです。
ストレートエンドを目指してスロットルを開けていくと、速度が直線的に伸びていきます。
一般的な4気筒エンジンに見られる、超高回転域で二次曲線的に伸びていく加速はありません。そのためサーキットでは、ここからSSに競り負けます。
しかしその分、ブレーキングポイントの目測が立てやすく、コーナー進入で抜き返すことも十分に可能です。
なお、MT-10のCP4エンジンはYZF-R1をベースとしていますが、まったく同じではありません。
多数の部品が新作・形状変更され、ストリート向けにチューニングが施されています。
以下は、ヤマハ公式「開発ストーリー:MT-10」で語られている主な変更点です。
- トルクフィーリングの向上
- クランク軸上(クランク、ACM)の慣性モーメントを増大
- コンロッドをチタン→鉄に変更(質量増を許容してフィーリング優先)
- 中低速域トルクの向上
- ピストン新造により圧縮比を最適化
- 吸気バルブ径をφ33mm→φ31mmへ変更
- 吸気ポート形状・燃焼室形状を刷新
- ツインインジェクターを見直し(エアファンネル付近側を廃止)
- エアクリーナーボックス容量を最適化
- 増大したトルクの操作性の向上
- 街乗りで多用するアクセル微少開度域の反応・出力特性を重点的に作り込み
- D-Mode(複数エンジン特性切替)とトラクションコントロールを含め、各制御の介入の仕方と体感フィーリングを時間を掛けて調整
ここまで不思議で、かつ官能的なエンジンには、なかなか出会えません。
実際に乗ってもらわなければ、この魅力の10%も伝えられない――そんな自分の文才のなさを、不甲斐なく思います。
フレーム・サスペンション

MT-10は、フレームやサスペンションをYZF-R1と共有していることもあり、マシンの安定感が高く、キビキビと走ります。
一方で、極低速域でも「いい塩梅」で動く足に仕上げられており、アクセルをわずかに開けたときの挙動が最小限に抑えられています。このため、舗装林道などの、YZF-R1が苦手とする領域も走りやすいです。
もちろん、国際公認サーキットなどの高負荷領域では、YZF-R1譲りの安定感で生き生きと走れます。
さらにSPに装備されるOHLINSセミアクティブ電子制御サスペンションは、車速やIMUが算出した加減速度などをもとに、最適な減衰力を設定してくれます。
その結果、速度域を問わず、しなやかな足回りを実現しています。
SSはどうしても「サーキットや峠は最高、ほかは我慢」となりがちです。
しかし、MT-10では幅広い道を緊張を強いられずに走れますし、YZF-R1譲りのリッチな足回りを味わうことができます。
ブレーキ

MT-10のブレーキは、初期制動が穏やかで、もう一段深く握ると制動力が立ち上がる設定です。
そのため、サーキットやワインディングを楽しむ層には、毎回しっかり握り込む必要があり、わずわらしいと感じることが多いでしょう。
そこでkuroki号では、ブレーキディスクとパッドを変更して初期制動のタッチを見直し、コーナーへのアプローチをしやすくしています。
さらにマスターシリンダーを交換することで、ブレーキのコントロール性を高めています。これは、フロントフォークを縮めながらフロントブレーキをじんわりとリリースしていく操作において、特に有効です。
MT-10で走りのカスタムをするなら、まずブレーキからだと考えています。
航続距離が短め

一方で、MT-10の残念なポイントとして挙げられるのが、燃費の悪さ、すなわち航続距離の短さです。
タンク容量は17Lもありますが、200kmを超えたあたりでFランプが点灯します。ワインディング中心の走りなら、150km足らずで点くことも珍しくありません。
kuroki号の最高燃費は19.6km/L。
理論上の航続距離は333.2kmとなりますが……怖くてそこまで走り切る勇気はありません。
MT-10と付き合うなら、ガソリンスタンド・マネジメントは必須スキルです。
まとめ

MT-10は乗りやすく間口の広いマシンです。
CP4エンジンの官能的なフィーリングを、できるだけ多くのライダーに味わっていただきたい。
しかしながら、その真髄をしっかり味わうには、相応のスキルも求められます。
冷静にマシンを御することができるベテランライダーにこそ選んでいただきたい。
そういう意味で、YAMAHAラインナップの中でも「上がりバイク」と言える存在だと思います。
価格は決して安くありません。
その分、質感は高く、所有する喜びがあります。
そして何より、走るたびに身体に喜びが走る。
そんな質感の高い走りを持ったマシンです。
こんなバイク、なかなかありませんよ。
