【コラム】クイックシフターは必要か?
2024年7月、Xのトレンドに「クイックシフター」が入りました。盛り上がりの内容は様々でしたが、無知や誤解に基づくものが割と目立ちました。
2017年にこんなコラムを書いたkurokiとしては残念に思いましたので、改めてクイックシフターとはどのようなパーツなのかを書いておこうと思います。
長文となりますが、どうぞお付き合いください。
クイックシフターとは(ざっくり)
詳細は後述しますが、要点をざっくり言うと以下の通りです。
- 速く走るために作られたレーシングパーツ
- タイム短縮を目指すライダーには有用なパーツ
- シフトアップ側
- ノンクラッチ・シフトアップを機械がサポート
- アクセル全開のままシフトアップできるので、加速が伸びる
- シフトダウン側
- ブリッピング・シフトダウンを機械がサポート
- ブリッピング操作が不要になるので、ブレーキングに集中できる
論点の整理
Xのポストを見ていると、レイヤーが異なる論点がゴチャゴチャになっていると感じましたので、論点を整理してみました。
レイヤー0:用語の定義
昨今のクイックシフターには二つの動作がありますが、両者は別物と考えてください。まるっきり動作が異なります。
よって、本稿では明示的に書き分けることにします。
- シフトアップ側
- 別名:オートシフター
- 本稿では「シフター」と表記
- もともとシフトアップ側から登場したので、暗黙的にアップ側だけを指している場合がある
- シフトダウン側
- 別名:オートブリッパー
- 本稿では「ブリッパー」と表記
- スリッパークラッチ
- クラッチを機械的に滑らしてバックトルクを逃す仕組み
- ブリッパーと併用してシフトダウン時のリアタイヤのホッピングを抑える
レイヤー1:有用 or 無用?
シフターには、ノーリスクで加速が伸びるメリットがあります。
ブリッパーには、ライディングの中で最も難しい作業であるブレーキングが単純化されるメリットがあります。
これらのメリットは、速く走るためには大変有用です。ここに議論の余地などありません。
レイヤー2:必要 or 不要?
乗り手の走る状況によって、必要 or 不要が判断されるものです。
タイムを短縮したいならば、必要の一択。
そうでなければ、乗り手の趣味・嗜好で要不要を判断するものです。お好きに検討すれば良いでしょう。
例えばシフターを使わず昔ながらの操作を楽しむのもアリですし、シフターによる途切れない加速を楽しむのもアリです。シフターとブリッパーでクラッチ操作を省略する走りをするもアリです。
バイクは趣味の乗り物ですから、どれを選ぼうと乗り手の自由だと思いますよ。
FAQ
Xのポストでよく見かけた誤解を解くために、ここで説明をしておきます。
ノンクラッチ・シフトアップがあればクイックシフターは必要ない
タイムを短縮したいならシフターは必要です。ブリッパーもあると有用で便利です。
そうでなければシフターもブリッパーも必要ありませんが、あると有用で便利です。
そもそも、操作を楽しむ走りとタイムを短縮する走りは次元が異なることを理解しておくべきです。
また、ノンクラッチ・シフトアップは
クイックシフターを使ってみたが、必要だと思わなかった
タイムの詰め方を知っている、つまり加速の重要さを身に染みてわかっているレベルであれば、必要性をすんなり理解できるでしょう。
逆にそのレベルに達していなければ、残念ながら理解は難しい。むしろ、シフターとブリッパーは面白パーツとして見えるはずです。
クイックシフターはミッションに負荷がかかる
シフターやブリッパーの有無は関係ありません。
シフトが上手く決まればミッションやクラッチに加わる負荷を減らせますが、失敗すれば破損の原因になります。シフターが無くても同じことが言えます。
下手くそなシフトアップをシフターが助長する面があったとしても、それは基本的に乗り手の問題です。
クイックシフターは変速ショックがある
2速以上で急加速中なら、ショックも少なくスコンと入ります。シフターとブリッパーはキビキビした走りと相性が良いのです。ゆっくりペースでは素直にクラッチを使いましょう。
そもそも、シフターはシフトショックを改善するパーツじゃないことを理解しておくべきでしょう。
クイックシフターとは(詳細)
※今まで書かれたことと重複する内容がありますが、ご容赦ください
ベテランライダーには「ノンクラッチ・シフトアップ」と呼ばれるクラッチを使わずにシフトアップする技が知られています。一瞬アクセルだけアクセルを戻した瞬間にシフトアップすると、クラッチ握らずにスコンとギアが入ります。
ドグミッションの構造上、ギアに力が加わっていないときは簡単にギアチェンジできることを利用した技ですね。
シフターは、その操作を機械で自動的に行うパーツです。具体的にはライダーのシフトアップ操作を検知すると、ECUが一瞬点火をカットして、アクセルを戻したときと同じ状態を作ります。ライダーがそのまま操作を続けると、スコンとギアが入るって寸法です。
さらにシフターには有利なことがあります。
- アクセル開度を全開に固定したまま、シフトアップが行える
- バタフライバルブが開いたままになるため、混合気が安定して流れる
その結果、ノーリスクで加速が伸びます。タイム短縮の基本は、アクセルを開ける時間を可能な限り長く取ることですが、それがノーリスクで得られる美味しいパーツなのです。
また、ブリッピング・シフトダウンという、クラッチを切るのと同時にアクセルを少しあおってリアタイヤのホッピングを抑える技があります。サーキットを走るライダーの必須技術と言えます。
ブリッパーは、その操作を機械で自動的に行うパーツです。具体的にライダーのシフトダウン操作を検知すると、ECUが一瞬点火をカットした後、アクセルを少し開けて回転数を合わせてくれます。そのままライダーが操作を続けると、ごく自然にシフトダウンが決まります。
ブレーキングとシフトダウンを同時並行で行うのは、実に忙しい操作です。しかし、ブリッパーとスリッパークラッチがホッピングを抑えてくれるため、ライダーはブレーキのコントロールに全集中できます。
シフターとブリッパーには、操作を楽にする効果があることは確かです。このことがクローズアップされがちですが、本来の目的は速く走るためです。ここを理解しておかないと、的外れの指摘をしかねません。
乗り手のアップデートも必要
経験の長いベテランライダーほど、身体に染み着いた操作が邪魔をします。特にブリッパーへの順応に時間がかかる方は多いと思います。
シフターとブリッパーがSSの標準装備となった今、これらを上手く使って走る方が建設的です。
一握りの達人以外は機械の方が操作が上手いので、機械を信じて行く方が効率的です。
ただ、身体で覚えた感覚が邪魔をして一歩先へ踏み出せないことには、心の底から同意しますが。
いずれにせよ最新マシンで速く走りたいなら、
私を含めたオールドスタイルのライダーには辛いところですが…。
最後に
シフターとブリッパーは、あくまで速く走るためのレーシングパーツです。
楽に走れる側面もありますが、これは副次的な効果です。
くれぐれもお間違えなきようお願いします。